2024.03.07

若い世代が紡ぐ朝市の伝統と文化。
日本三大朝市「勝浦朝市」のにぎわい(後編)

カルチャー / グルメ

三陸沖からの寒流とフィリピン近海からの暖流がぶつかる勝浦沖は、それぞれの流れにのってやってきた魚が集まる潮目。農林水産省によると、伊勢海老の漁獲量全国1位は千葉県、カツオは岩手県の気仙沼に次いで全国2位などの実績を誇る世界屈指の好漁場です。

勝浦では、禁漁期間の厳守、漁の4時間制限、夜間漁禁止、25㎝以下は放流、獲りすぎない立網漁など、サステナブルな“育てる漁業”を地域全体で連携しながら実践しており、温暖化で漁獲量が減少傾向にある今、金目鯛の水揚げ量が増えるといった成果に繋がっています。

勝浦は一方で農業も盛んな地域。
朝市には柑橘類やキウイといった果物をはじめ、夏にはトマトやきゅうり、冬には大根や里芋など季節を感じられる旬の野菜が並ぶ。


魚貝にパン、果物、スイーツ…勝浦グルメが満載

そんな一年を通して新鮮な高級魚貝や野菜が獲れる勝浦の朝市に来たのならば、買い物はもちろん、やはり食べ歩きがしたいもの。早朝からお昼まで、地元の鰹節で出汁を取ったおでんや寿司、スイーツ、地元の特産品でつくられたドリンクなど、勝浦ならではのグルメを手ごろな値段で楽しめます。

朝市の近くにある「朝市新鮮広場 魚水(うおすい)」。午前7時から営業してい る。朝市周辺にも勝浦の海の幸を楽しめる店が並びにぎわう。

左)「まぐろの漬け丼」と右)「サーモン・イクラの義理の親子丼」。海鮮丼が 770円台からいただけるコスパの良さが嬉しい。

朝市は出店者とのコミュニケーションも魅力のひとつ。景気のよい声をかけられたり、冗談を言い合ったり、値段交渉したり、秘伝のレシピを教えてもらったり、清々しい朝の空気のなか、今日、初めて会った人同士が気軽におしゃべりする姿は印象的です。

ちなみに、露店は各々出店する場所が決まっており「かつうら朝市の会」が発行する出店許可証が必要だそう。現在は50年以上出店し続けているベテラン名物店から、個性的な新規店まで約80店舗が登録中で、天候にもよりますが、うち30店舗前後が朝市に軒を連ねます。

伝統ある勝浦朝市ですが、コロナ禍に始めたライブ配信をみながら自宅で品物を購入できる代行サービスや、都内のイベントや千葉駅、市内キャンプ場などで朝市の商品を販売する「出張朝市」なども定期的に開催中で、新しいものを積極的に取り入れる勝浦の気骨もまた、次の世代に継承されているようです。


すぐおいしい、すぐ温かい! 漁師飯だったタンタンメン

さて、そんな勝浦の挑戦として忘れてはならないのが、ご当地グルメ「勝浦タンタンメン」の存在。胡麻ダレを使わず、醤油ベースのスープにラー油、挽肉、玉ねぎ、白髪ねぎなどを使った勝浦独自の坦々麺風ラーメンです。

もとは昼時に漁を終えた漁師や海女さんたちが、冷えた身体と胃袋を温めるために食べていたものが地域に広まったのが始まりで、2011年の「関東B-1グランプリin行田」でのシルバーグランプリを機にその名を全国に広めました。その後「2012関東・東海B-1グランプリin甲府」と2015年に開催した「第10回大会B-1グランプリin十和田とゴールドグランプリ」に輝いています。

勝浦市内に34店舗ほどの専門店があるなか、午前7時から営業している下本町朝市通り沿いの「御食事処 いしい」は、朝市をめぐる際に立ち寄ることができる人気店。醤油、塩、味噌、とんこつ、カレーの4種類のスープと自家製のラー油、チャーシューが自慢ですが、タンタンメンの他に旬の地魚を使った定食も評判。観光客や買い物客以外に一仕事終えた朝市の出店者も訪れます。

人気の「塩味」。よく煮込まれた玉ねぎの甘味とラー油の辛さがマッチして旨い。

ご当地グルメ「勝浦タンタンメン」は、当時の商工会青年部が地域興しにPRしたのがはじまり。「B1グランプリ」に参加した際には、出展ブースに並ぶお客様により早く美味しく食べてもらえるようにと、味のクオリティを維持したまま時短調理できるよう工夫。2日間でのべ2万食を出す盛況ぶりで話題になりました。

さまざまな企業とのコラボレーション商品が発売され、勝浦土産として親しまれている。

「勝浦タンタンメン企業組合」代表理事 三上直哉さん。

こうした勝浦タンタンメンのPR 活動について「もともとは町おこしから始まったものが、今は“町のこし”へと活動が変わってきている」と話すのは「勝浦タンタンメン企業組合」の三上直哉さん。勝浦タンタンメンの仕掛け人のひとりです。

三上「確かに勝浦タンタンメンのヒットで店に行列ができるなど、勝浦にお客様が来てくださった実感はありますが、勝浦と言えば港町で、朝市をはじめ地域の旨いモノが集まってくる場所。我々としては、ここでしか味わえないたくさんの勝浦グルメに出会っていただきたい気持ちが強くあります」

そのため「勝浦タンタンメン」として地域団体商標を取得し、主に勝浦市内での出店にとどめる地域限定グルメとしてのブランド化を試みています。商標は無料ですが、新規に出店する場合は「勝浦タンタンメン企業組合」からの公認が必要で、①ベースの味をしっかりと継承していること、②勝浦市内に店舗があること、③公認店2店からの推薦の3つが条件となります。

基本のレシピの味さえ守られていれば、具材やスープの味、辛さ、麺の太さなどは自由にアレンジすることができ、カレー味や味噌味、なかにはパスタなどもあるそう。勝浦市に通い、店ごとのオリジナルレシピを制覇する強者もいるとか。ラーメンの枠を飛び越えたご当地グルメとして愛されているのです。

勝浦市飲食店組合と出している「勝浦タンタンメンマップ」には、正規取扱店が市内外併せて41店舗掲載されている。※2023年9月現在。

三上「勝浦タンタンメンがきっかけでも構いません。ぜひ勝浦市に来て、勝浦ならではの文化や名産品に触れて楽しんでもらいたい。それがこの地域の伝統の未来に伝える“町のこし”ですよね」

気候の良さ、豊富な魚介類と農作物、海を愛する気持ち、そして勝浦の人々の明るさや気さくさ、それら込みで「勝浦タンタンメン」のレシピは完成するのです。

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