2023.10.16

ワイン特区と「Sawa Wines」
八街市に初めてできたワイナリーの軌跡

カルチャー / グルメ

2019年9月9日に千葉市付近に上陸した台風15号。県内全域に記録的な暴風雨と被害をもたらしたこの台風は、八街市にあるぶどう農家「株式会社山本ファーム」(八街市小谷流)にも甚大な損害をあたえました。

2010年に栽培を開始し収穫したぶどうをワインに出来たのが2014年。ようやく軌道に乗り始めた矢先の台風被害を前に山本さんは、「とても夫婦ふたりだけでは再興できない」とクラウドファンデングで支援を募ったところ、目標の4倍以上をも上回る金額が集まり、それまであまり知られていなかった八街産のワインが周知されるきっかけにもなりました。

その後、2021年10月には念願だった「Sawa Wines」が誕生し、八街市初のワイナリーが誕生することになったのです。

「株式会社山本ファーム」代表取締役の山本博幸さん。


かつては軍事産業だったワイナリー

山本「実家は農家でしたが、家庭の事情で畑を人に貸していました。ところがその土地が還ってくることになって。ならば僕が体力のある若いうちから農業を始めてみようかと考えたんです。当時、飲食業界で働いていてワインを扱うこともあり、その面白さは知っているつもりでしたから、ぶどう畑に挑戦しようと気軽な気持ちで始めたのですが…これが、めちゃめちゃ大変でした(笑)」

今でこそ県内に「Sawa Wines」を含め4軒あるワイナリーですが、山本さんが始めたころは「斎藤ぶどう園」(山武郡横芝光町)のみ。尋ねて話を聞いたり、仕込みを手伝わせてもらったりしたそうです。

山本「実は戦前、県内にはたくさんのワイナリーが存在しました。潜水艇などに搭載する音波防御レーダーに必要な酒石酸(しゅせきさん)がワインの滓(おり)や酒樽から採取でき軍事産業として奨励されていたためで、前出の斎藤ぶどう園はその頃から続くワイナリーです」

戦後長らく衰退していた国産ワイン産業ですが、2008年に醸造免許の要件を緩和した「ワイン特区」(本来6,000ℓ仕込まなければならないところ特区内は2,000ℓになる)が導入されたことで、徐々に小規模ワイナリーが増えはじめます。2015年には、国産ブドウを原料とした果実酒を“日本ワイン”とすることを国が正式に決めたのを機に、各地で個性的な日本ワインが誕生するにいたります。

この特区申請に関して、すでに認定されていたつくば市(茨城県)の担当者を紹介するなど自ら八街市に働きかけた山本さんですが、市職員の尽力もあり八街市は2020年に「ワイン特区」認定となり、その甲斐あってぶどう畑やワイナリーに挑戦する新規参入者が増えてきているそうです。


八街の風土にあったぶどう品種を探す

ぶどうは苗からツルが伸び、棚に巻き枝がからむまでに2~3年、収穫できるようになるまでに4~5年かかります。収穫されたぶどうはプレス機でつぶし酵母菌を加えて1週間~10日前後かけてアルコールに変化させます。溜まった沈殿物を濾過しながら熟成させ、新酒ならば2ヶ月、長いものでは3~4ヶ月かけて出荷できる状態にします。

もともと落花生の街として有名な八街市ですが、風通しがよく適度に乾燥していて降水量が少ない気候はぶどう栽培にも適しています。一方で秋になっても20℃を下回らない温暖化と台風被害は悩みの種。山本さんは、8月に収穫できる早生品種をはじめ6種類のぶどうを栽培し、より八街にふさわしい品種を選定中です。

畑にはピノノワール、ピノグリージョ、サンジョベーゼの3種類が植わっている。
別の畑ではシャルドネなどが育っており全部で6品種(約4,000㎏)が収穫できる。

初夏(~7月)は草を刈り、棚に枝を止めたりしながら、間引きをしたぶどうの粒を安定させる時期。8月には熟して色づきが完成する。

写真は10年目のサンジョベーゼ(イタリア系品種)。よく見ると色づいている実も。色はとびとびで変わっていくそうだ。

収穫したブドウの実と果軸を分離させる除梗破砕機。

ぶどうの実を潰すプレス機(手前)と醸造タンク(奥)


クラウドファンデング支援の力

将来的には1万5,000㎏ほどの収穫を見込んでいる畑ですが、「今、こうしてワイナリーがあるのは、応援してくださった皆様のおかげ」と山本さんは2019年の台風被害をふりかえります。

山本「マスカット・ベリーAは木がなぎ倒され、ぶどうは7割が房ごと落ちて使い物にならなくなるなど凄まじい爪痕でした。3,000㎏ほど収穫できる予定が、最終的に440㎏を下回っただけでなく、スズメバチが傷ついたぶどうに大量に群がり、実を食い荒らすという予想外の2次被害にも襲われて」

傷ついた実を、ひと粒ひと粒排除しなければスズメバチの被害は拡大するいっぽう。刺される危険性を考えると誰かに助けを求めることもできず、修復もままならないまま、ご夫妻で尋常でない数のスズメバチを駆除したそうです。

2019年9月に千葉県を襲った台風15号になぎ倒されたぶどうの木。

この惨憺たる有様を前に「もはやこの被害は自分達だけの問題ではない、自分達だけで完結させてはいけないと思いました」という山本さんは、ワイナリーの未来、ひいては地域農業の発展の一助になることを願いクラウドファンデングで支援を呼びかけることに。

わずかに収穫できたマスカット・ベリーA2019と台風が上陸する前に収穫できていたシャルドネ2019を組み合わせた特別セットなどをリターンとして募ったところ、県内を中心に沖縄など広範囲から予想を上回る支援が集まり、それは八街のワインを知ってもらうきっかけにも繋がりました。

シャルドネの白(左)と、マスカット・ベリーAの赤(右)。「Sawa Wines」のワインは香りが良くフレッシュ&フルーティなのが特長。和食との相性も良く、肉じゃがや大根を焚いたもの、煮魚、刺身(カルパッチョ)などと楽しむのがおススメ。

飲みやすく色が美しいマスカット・ベリーAのロゼは女性に人気。

今、「Sawa Wines」では、マスカット・ベリーAとシャルドネ以外の品種で商品化を目指しています。ひたむきに質、量ともに安定させ、より多くのお客様に八街産のワインを届けたいと話す山本さん。調理師免許をお持ちだそうで、いずれはワインの美味しい素敵なお店をワイナリーの近くで開く目標もかかげています。

今回、リソルの森では山本ファームのSawa Winesを「Bar もみじ」にて10月20日(金)より期間限定で提供します。地元産ワインのフレッシュでフルーティな味わいをお楽しみ下さい。


株式会社 山本ファーム
千葉県八街市小谷流887-1
https://www.sawawines.com/

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