2023.09.11

岡山県備前市から千葉県へ
東西の土を掛け合わせた「六地蔵窯」焼締陶

カルチャー

岡山県で備前焼を学び、六地蔵(長生郡長柄町)に移住してきた陶芸家の安田裕康さん。自ら開窯した「六地蔵窯」が初窯をむかえたのは2007年(平成19年)のこと。以来、素材である土づくりから、ろくろ回し、成型、薪集め、窯焚きまでを一貫して行い数々の作品を生み出しています。

六地蔵窯の窯主、陶芸作家の安田裕康さん。


釉薬をつかわない焼締陶の魅力

安田さんが8年かけて学んだ備前焼は岡山県伊部地区が代表的な産地。釉薬をかけず、絵付けもしない1,200〜1,300℃の高温で焼かれたシンプルな焼締(やきしめ)には、土の性質や窯の温度、焼成時の位置、炭の付着などにより、その表面には豊かで趣(おもむき)のある表情が生まれます。

六地蔵窯の焼締陶は、備前焼の技術を基に岡山産と六地蔵の土を合わせて煉られた粘土と安田さんの手と感性から生まれたもの。一つ一つに和の個性がひかります。

安田「釉薬で色をつけた陶器ならばシリーズで揃えるのは難しくないのですが、焼締陶はひとつとして同じものがないので、そういった意味では扱いが難しいです。でも、今はさまざまな産地の焼き物をうまくコーディネートして自由に使う時代。その個性を活かして、どの場所に置くかが焼締陶の醍醐味でもあります。特に、古民家カフェや格式があるような和の空間にはよく馴染みます」

白や青い色の“抜け”は「胡麻」と呼ばれ、窯のなかで燃料の赤松の灰が降りかかることで現れる。

灰が積もった場所に置かれた器は、直接に火があたらずに燻されたようになり、黒~蒼といった独特の色目になる。

緋色の襷(たすき)をかけたような色合いの「緋襷(ひだすき)」。窯詰めをした際に、作品同士がつかないように藁を巻いた部分が模様として現れたもの。素地に含まれた鉄分と藁に含まれたカリウムが化学変化をおこしてできる。

リソルの森にある、旧スイス大使館を移設したレストラン「翠州亭」では安田さんの焼締陶の茶器を使用した「アフタヌーンティー with 六地蔵窯」を提供する。(2023年6月で一旦終了)。亭内には焼締陶のギャラリーもある。

実は、有機物を多く含んだ若い年齢の千葉の土は焼き物には向かないというのが定説だそうです。焼くと有機物が燃えて収縮しすぎてしまいカタチが保持しにくいためです。

安田「でも、それがかえって個性になるかなと。住居と工房を建てる際に山を切り開き20tくらいの粘土を掘り出したのですが、クセが強いけれど面白い土だなと感じたんです。六地蔵窯周辺の粘土はデリケートで細かい組織なので焼き物にはむいていません。そこで岡山の土をベースに、表面に薄く塗りつけて焼いてみたところ不思議な趣のひび割れが生まれました。この、程良くひび割れた表情をどのようにつくりだしていくのかが、僕の一生の課題ですね」

六地蔵窯の焼締陶。六地蔵周辺の粘土を表面に塗りつけたことで現れた独特のひび割れが、光の当たり具合によりさまざまな表情に変化する。

工房裏に広がる芝生の庭。この場所から粘土は採取された。ちなみに工房も住まいも東屋もすべて安田さんのお手製。


旅先で備前焼と出会い陶芸の道に

子供のころから焚火が好きで、炎の美しさに魅せられていたという安田さんは、24歳の頃に立ち寄った岡山で、たまたまショーウインドウに飾ってあった備前焼と出会います。

安田「僕、旅の途中で髪も髭ぼうぼう。汚い身なりだったのですが、店主が出て来て備前焼に興味があるなら“伊部”(備前市)に行って見てくれば?と勧めてくれました。行ってみたら煙突から煙がもうもうとでていて、登り窯で炎をコントロールしている姿に感動しちゃって」

登り窯とは、斜面地形を利用して、炉内をいくつかの部屋に仕切きった部屋(窯)を階段上に築いた形式のものです。燃焼ガスの対流を利用し、炉内にある陶器の焼成時に温度を一定の高さに保てるように工夫されています。

六地蔵窯の登り窯では、一回の窯焚きに2,500点くらいの作品を納めて焼きます。安田さんの場合は外気温20℃からはじめ、急激に温度を上げるとデリケートな粘土が壊れてしまうため、1時間に3℃ペースでゆっくりと窯のなかの温度を上昇させていきます。熱に慣れてきたら1時間5℃ペースに変えて10日くらい続け、1,200~1,300℃を2週間保ちます。

安田「ふつう、窯焚きは3~4日。なかには90mもある窯で3ヶ月焚く作家もいますが、僕のように2週間続けるのは長いほうです。屋外にある自然の窯は、その時どきの環境変化が仕上がりを左右しますから、予想をこえた出来の作品に出会うこともあれば、失敗することもあります。判断ミスが重なると雪ダルマ式に失敗が増えて修正が不可能になるし、だから、どんな方法でも出来上がったものがチャーミングであれば嬉しいです」

六地蔵窯の火入れは年に1回ほど。窯焚きは乾燥した季節を狙い、それまでに作品を仕上げていきます。粘土づくりだけでも3~4カ月ほどかかるそうで、独りですべてをこなす安田さんが年に何回も窯焚きを重ねることは困難です。

土を種類ごとに砕いて水に浸して粘土していく。粘土の種類は11あり、それぞれ配合を変えると80パターンにも及ぶ。さらに窯の位置によって相性の良い配合が違うため、仕上がりの表情は無限の可能性を秘める。


千葉はモノづくりするのに良い環境

独立の際に岡山にとどまるのか、故郷の鹿児島県に帰るのか、新天地を開拓するのか? 色々と選択肢があるなか、安田さんは千葉県が生活しやすそうだと4年くらいかけて移住先を探し越してきました。

安田「千葉の良さは、いい意味で“間が抜けている”ところです(笑)。都心に近くて情報量が多いのに、空き地のような空間もあり、おおらかでしょう? 尖った感性をもった人同士が互いの距離を保ったまま生活できて、各々の活動や世界観を追求できるところが居心地よいです。それでいて、何かあれば助け合うような繋がりはあって。つかず離れずの関係が築きやすい環境ですよね」

現在、六地蔵窯では陶芸体験を不定期で行っています。「焼締陶の伝統を次の世代に継いでいくのが僕の役割だと思っている」と語る安田さん。日本ほど焼き物の種類が豊富で生活に溶け込んでいる国はないと話します。

安田「備前焼にしても1,400年の歴史と積み重ねがあり教科書ができている。僕はそれを超えるほどの技術はないけれど、せめて、先人がつくりあげてきたカタチを省略せず、楽をせず、分業せずに大切に伝えていきたいのです」

特に公には告知していないそうですが、体験希望の方は下記宛てお問い合わせ下さい。
e-mail:rokujizounagara@gmail.com

次回、窯の火入れと窯焚きの作業を取材します。


六地蔵窯
千葉県長生郡長柄町六地蔵579-1

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