2023.06.20

醤油は野田、みりんといえば流山
醸造の街で白みりんグルメを堪能

カルチャー / グルメ

江戸から明治期にかけ、東北や北海道方面からの船荷は房総半島を一周して東京湾に入る、または銚子港から利根川をのぼり千葉県の関宿(野田市)を経由し江戸へと運ばれていました。やがて、明治23年に日本初の人工西洋式運河である「利根運河」が通水すると、利根川から江戸川へのショートカットが可能になりました。

利根運河沿いの河岸は栄え、あまたの船問屋や蔵が立ち並ぶようになります。現在も続く野田市唯一の老舗酒蔵「窪田酒造株式会社(以下、窪田酒造)」もそのひとつで、利根運河の完成を機に、明治29年に市内から移転。利根運河沿いの広大な敷地内には今も、酒蔵や後に分社化されたという醤油蔵や味噌蔵があります。

創業1872年(明治5年)「窪田酒造」五代目当主 杜氏の窪田芳太郎氏。

醸造の街 野田にふさわしく千葉県産を中心に厳選した酒米で仕込む丁寧な酒造りは多くのファンを魅了してやみませんが、その酒造りとともに人気を博しているのが流山伝統の古式造りで再現した「古式造り 流山本みりん」(以下、流山本みりん)です。

窪田酒造の「古式造り 流山本みりん 宝船」。
人気が高く、流山の白みりんを取り扱う「かごや商店」(流山市加)では予約しないと手に入らない。


白みりん発祥の地、流山

室町時代から戦国時代にはあったとされるみりん。豊臣秀吉が甥の秀次から贈られたという記録が残っており、当時はたいへん高価な酒として珍重されていたようですが、やがて技術の発達とともに庶民でも楽しめるものとなり江戸時代に大衆化されていきます。

みりんは主に京都や愛知といった上方が産地であり、そこから江戸へと流通していましたが、流山周辺がみりん造りに欠かせないもち米の一大産地であったことから近隣の酒蔵がみりん造りをはじめ、やがて堀切家や秋元家が「白みりん」を開発。調味料として江戸の庶民に大人気となります。

みりんは、蒸米(蒸したうるち米)に麹菌をふりかけて発酵させた米麹、掛米(蒸したもち米)、醸造アルコールなどを混ぜて仕込んだ「諸味(もろみ)」を、発酵タンクのなかで糖化熟成させてつくられます。もち米はうるち米に比べ糖化しやすい性質があるため、清酒よりも甘く仕上がるのです。

窪田「甘味が少ない時代にもち米からとった糖質は最高の甘さでした。基本的に甘味はお金持ちの贅沢品だから、みりん酒造りも生活の厳しい土地では発展しなかった。江戸(東京)への水運が発達していて、もち米の産地だった流山はみりん酒造りに適した場所だったんです」

ちなみに、堀切家がつくったのが「万上本みりん」(現在は「流山キッコーマン(株)」が製造販売)、秋元家がつくったのが「天晴本みりん」(現在は「三菱商事ライフサイエンス株式会社」が製造販売)であり、どちらも流山白みりんの元祖として知られています。


流山のみりんはなぜ白い?

清酒造りと異なりアルコール発酵の工程がないみりんは“米麹の質”が仕上がりに大きく影響します。窪田酒造では国産にこだわったもち米とうるち米を使用し、丁寧に磨き糠を削ぎ落とした精米歩合の高い粒で米麹をつくります。この米麹と掛米、醸造用アルコールなどをタンクで仕込みできた諸味を、昔ながらの自然濾過製法によって丁寧に絞った後、3~6カ月ほど寝かせて出荷します。

窪田「上方からくる純米系統の伝統的な“赤みりん”が1年以上寝かせて味を定着させるのに比べて、「流山本みりん」は糖分とアミノ酸が結びつき、色が濃く変化する前に充填して出荷するから白いのです。赤みりんは熟成度が高いぶん甘味や旨味が強く、煮切り(煮てアルコールをとばす料理工程)のときに泡(濁り)がでにくいです」

赤みりんは濃い味つけの料理向き、対して白い「流山本みりん」は、さまざまな料理に合いやすく、素材の色を損なうことなく美しく仕上げられます。また、そのままお酒として嗜む、バニラアイスクリームにかけてアフォガ―ドのようにスイーツとしていただくなど、さまざまな楽しみ方があります。

窪田酒造の「製麹室」。このなかで、蒸米に麹をかけて米麹をつくる。

できた米麹と掛米、醸造用アルコール(焼酎)を仕込み諸味をつくる。

野田市唯一の老舗酒蔵らしい梁と天井の高さ。


流山で楽しむ白みりんグルメ

お酒として嗜むもよし、調味料として使うもよし、スイーツとして楽しむのもよしの「流山本みりん」。食パン専門店「麥乃」(流山市木)では、「流山本みりん・宝船」を煮立てたキャラメルをシート上に加工し、生地に丁寧に折り込んだ「白みりん×塩キャラメル食パン」を販売しており、店頭に並ぶと同時に売り切れてしまうほどの評判です。

「麥乃」の白みりん×塩キャラメル食パン。

また、築130年の古民家をリノベーションした日本茶カフェ「葉茶屋 寺田園」(流山市流山)では流山本みりんを使った料理や「米粉豆乳シフォンケーキ」、「パイ生地シュークリーム」などのオリジナルスイーツが楽しめます。

寺田園旧店舗(国登録有形文化財)。

「TERADAZEN」(通称、みりん御前)。季節のおこわ…流山本町「和菓子や めい月」特製、旬の野菜を使ったおこわ。蒸し野菜…流山農産物直売所「新鮮食味」で仕入れた野菜とみりんをつかった自家製酢あん。白和えフルーツ添え…流山市東深井「二川屋豆腐店」の手作り豆腐をベースに煮切ったみりんと白みりん粕「こぼれ梅」を使用した白和え。煮たまご…流山本町「たまごの海老原」の卵とみりん醤油で漬けた。汁物…白みりんと「こぼれ梅」で仕上げている。香の物…千葉県産の塩麹漬け。

寺田園が店を構える江戸川沿いの「流山本町大通り」は、江戸中期から明治期まで江戸へ物資を届ける水運の中継地点として栄えました。江戸まで半日という距離にあった流山本町は人や物資、文化が盛んに行き交う地であり、その面影が今も残ります。

通りに唯一残る黒漆喰磨仕上げで土蔵造りの寺田園は、昭和38年に移転するまで「寺田茶乾物屋」として親しまれていましたが、その後、万華鏡ギャラリー寺田園茶舗「見世蔵」としてオープン。2022年8月に、流山本町や利根運河周辺の地域おこしをプロデュースするDMO「株式会社流山ツーリズムデザイン」により、1階部分に日本茶をコンセプトとしたカフェへとリニューアル。白みりん料理とともに、各種日本茶などをベースにハーブや柑橘類を合わせたオリジナルブレンド茶、ドリンクなどを提供しています。

焙じ茶、レモネード、炭酸がマッチングした「焙じ茶クリームソーダ」。

寺田園オリジナルブレンド茶葉。

DMO「株式会社流山ツーリズムデザイン」の門脇伊知郎氏。

寺田園の他にも明治期の歴史的な建築物や土蔵などが点在する町には、夕刻になると100基を超える手作りの切り絵行灯が燈るそう。日が沈んでからの散策などもおススメです。

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