2023.03.15

隠れた千葉の名産品「金山寺味噌」
伝統的な発酵食品の魅力を東金市から発信

カルチャー / グルメ

金山寺味噌は、鎌倉時代に鷲峰山興国寺(和歌山県日高郡由良町)の開祖・法燈国師が中国にわたり径山寺(きんざんじ)から持ち帰ったとされる“なめみそ”の一種。大豆と米麹、塩を混ぜ熟成させた米味噌と異なり麦が主原料です。

もろみのなかには、キュウリやナス、ショウガ、シソなどの野菜が漬け込まれており、調味料としてではなく、麦粒の食感と野菜を楽しむ副菜や酒の肴として親しまれています。

和歌山県がルーツとされる金山寺味噌ですが、実は千葉県東金市の特産物として知られており、郷土料理としても地域住民から愛されています。なかでも、全国シェア3割をほこる嘉永元年(1848年)創業の老舗「小川屋味噌店」(以下、小川屋)の金山寺味噌は、自社で麦の外皮をむいて加工する“搗精(とうせい)”からおこなう全国でも珍しいものです。

東金市の「道の駅 みのりの郷東金」では、金山寺味噌が食材や土産として人気。千葉県産のエシャロットにつけていただくのが東金流だ。

「小川屋味噌店」石川明男 取締役工場長。

今回は、株式会社「小川屋味噌店」取締役工場長 石川明男さんに工場を案内していただき、金山寺味噌のルーツや千葉県との関わりなどを探りました。


千葉と金山寺味噌の関わり

石川「醤油が和歌山からきたように、味噌も和歌山から伝わったとされています。千葉に根付いたのは紀伊半島と気候的に近しかったからでしょう。むかしは山にトンネルを掘りレンガで麹室をつくっていましたから、種切りした麹を保管しておくのに夏が温暖で冬が適当に寒い千葉の気候は適していたと思います」

小川屋はもともと麹づくりを生業としていました。残念ながら明治期におきた東金の大火が原因で、主だった資料が消滅したため詳細は不明ですが、昭和20年代に入ってから金山寺味噌の生産がはじまったそうです。

石川「金山寺味噌にはこれといったレシピの定義はなく、地域やブランドで独自のルールや個性があります。小川屋の金山寺味噌は甘めでご飯や野菜にあわせやすい食感。食卓で皆さんに楽しんでいただけるような味に仕上げています。いちばんの特長は、外皮をむいて麦粒を削る“搗精(とうせい)”から行っていることでしょうか」

小川屋では、噛みしめたときの麦粒の食感を上質のものにするため、粒の大きさを揃えて削り、麦がふっくらと柔らかく、白く、皮が残りにくい仕上がりにこだわっています。

左)搗精済みの麦。右)原麦。搗精された美しい粒ぞろいの麦たちが小川屋特製の金山寺味噌になっていく。

石川「この粒の大きさの微調整が一般的な精麦機では難しく、伝統的に手作業で行っていましたが、小川屋の工場では、そのノウハウを反映したオリジナル精麦機を導入しており、今では1日1トンくらいの小麦を搗精しています」


金山寺味噌の製造過程

搗精が終わった小麦は、水に一晩ひたし蒸した後、麹菌を噴霧され2日間寝かせ麦麹にします。この過程を「製麹(せいぎく)」といい、金山寺味噌は麦が95%、大豆が5%弱の状態で製麹します。次に「諸味(もろみ)」の状態にするため、寝かせた麦麹に塩水や酵母を加え「醗酵室」に入れ熟成させて水分を絞ります。諸味の状態のまま野菜や水飴などをまぜて充填、その後「低温熟成室」で熟成させ香りがでてきたところで出来上がりです。

自動製麹装置。搗精が終わった麦に麹菌を噴霧し寝かせ麦麹にする。

諸味を約1カ月間一定の温度で寝かせ熟成させる。列ごとに種類や日付が分かるように並べられている。

金山寺味噌は「火入れ」をしないため酵素が生きています。風味が損なわれない反面、発酵が進みやすくなり、充填後、袋のなかで麹菌が活動しすぎないよう酒精や水あめを保存のために使います。金山寺味噌のやさしい甘さはこの水あめの甘さでもあるのです。


金山寺味噌の食べ方あれこれ

石川「金山寺味噌は通常の米味噌が11%前後のところ5%弱と塩分が控えめ。食べ方としては、キュウリやご飯にのせていただくのがスタンダードですが、今どきアレンジとしてはチキンやチーズと一緒にトーストにのせてあげると、ほどよい塩味と甘味、旨味がプラスされて美味しいです」

金山寺味噌は醤油を仕込むのと近しい製造工程です。いわば醤油の諸味の状態が金山寺味噌ともいえ、この諸味を濾して液体にしたものが醤油。(小麦が主原料である金山寺味噌は、同じく小麦を主原料とする「しろ醤油」に似る)そのため、野菜だけでなく魚や肉などとも相性が良く、醤油とあわせて美味しいものは金山寺味噌であわせても美味しくいただけます。

石川「豚肉(ロース)の金山寺漬けのように豚や鶏に付け込む他、シンプルに納豆に入れて混ぜてあげても旨いです。それから餅にのせると程よく甘く“みたらし”のような味で楽しめます」

小川屋では、このような金山寺味噌のアレンジレシピをWEB特設ページでも紹介しており、新しい金山寺味噌の魅力や楽しみ方を発信しているほか、地域に根ざした伝統的な食文化を受け継ぐ取り組みとして、工場見学や味噌つくり体験もできます。

金山寺味噌は特別な工程が多く家庭で仕込むのは難しいため米味噌つくりを体験。写真は小川屋特製「味噌つくりキット」。

煮大豆はポリ袋に入れ、袋の上から体重をかけて手で押し潰していく。

潰した煮大豆に「塩切り麹」を混ぜあわせる。

良く捏ね、耳たぶ程度の柔らかさにする。

混ぜ合わせたものを、空気をぬくようにギュッと丸めた団子にして容器に詰めていく。

空気が入らないよう手でたいらにしながら容器に隙間なく詰めていく。

表面を平らにして振り塩をする。

保存場所はエアコンの影響をうけない暑さ寒さを感じられるところがよいそう。熟成は半年が目安ですが、塩辛くまろみが足りないと感じた場合はもう1~2ヶ月のばしたり、仕込みから1年ほど置いたりするとよいです。容器から取り出した味噌は冷蔵庫・冷凍庫で保管します。

しっかりとラップ材を貼り付け重石の塩を置く。容器に蓋をして容器が入るビニール袋などに入れ密閉。仕込んだ日にちや量などを記しておく。

商品や体験を通して「麹が持つ“本来の魅力と新しい魅力”をお届けするのが使命」と話す石川さん。麹つくりや味噌づくりを継承していくのはもちろんのこと、新しい味づくりにも挑戦し続けています。


小川屋味噌店では、味噌づくり体験ができる味噌作り教室を開催しています。参加希望の方は以下フォームからお申込みください。
https://fusanoeki.fusa.co.jp/miso/miso-ogawa/

株式会社小川屋味噌店
〒283-0044 千葉県東金市 小沼田1662-5
https://www.ogawaya-misoten.co.jp/

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